【花もて語れ】4巻感想

花もて語れ 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

花もて語れ 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

 4巻では芥川龍之介の「トロッコ」を朗読します。
 心情の吐露,心の葛藤,不安の中で希望への渇望等が書かれてる後記芥川作品は,自分自身が感じている社会に対する不安等と重ね合わせ,作品に共感できるというてんで好きです。作品を読むにあたっては芥川自身の経歴や作品を書いていた時期,書いていた時代の世情等を調べておくと作品を十二分に楽しめます。特に芥川の自殺後に見つかったの作品「或阿呆の一生」の芥川自身の人生について書いた作品と言われ,人生の節目に感じたことを各章に書いているものの,その内容は抽象的・幻想的である。そこから,どのような思いでこの作品を芥川が書いていたのかを想像するのがとても楽しい。
 第七章の「画」では生前から名声を得るこのとのなかったゴッホ描き, 名声を得る為か,自分自身のために作品を書くのかの葛藤があったように思える。
 第九章の「死体」ではタブーを犯してでも新境地を切り開く意欲が書かれ,たとえ世間から批判されようとも自分自身の作風を作ろうとする決意が感じられる。第十章は夏目漱石と出会い心の平安を得た様子が十一章では,文壇に認められ日の事が書かれている。犬嫌いで有名な芥川が,「か細い黒犬が一匹,いきなり彼に吠えかかった。が,彼は驚かなかった。のみならずその犬さへ愛してゐた。」と書いている。文壇での批判も犬の遠吠えにすぎないとでも書きたかったのかととれる。第十二章軍港は潜水艦の中を舞台とし,外の様子を潜望鏡で覗いている場面を映画いている。

潜航艇の内部は薄暗かつた。彼は前後左右を蔽《おほ》つた機械の中に腰をかがめ、小さい目金《めがね》を覗《のぞ》いてゐた。その又目金に映つてゐるのは明るい軍港の風景だつた。「あすこに『金剛』も見えるでせう。」
 或海軍将校はかう彼に話しかけたりした。彼は四角いレンズの上に小さい軍艦を眺めながら、なぜかふと阿蘭陀芹《オランダぜり》を思ひ出した。一人前三十銭のビイフ・ステエクの上にもかすかに匂つてゐる阿蘭陀芹を。

このころになると文壇で認められ,前途洋々とお思われた芥川の人生も,世間からの期待とは裏腹に,自分の作風に迷いがあり,暗中模索でそれを探していたようにかんじる。
 作者の心情や世間に対する考えた方を読み取るのも小説の醍醐味であり,色々な解説書が出版させている芥川作品はとても楽しめる。また,文庫についている解説を読むだけでも楽しい。特に芥川作品では,作中の人物のからみた情景描写が,作者の心情描写と重なる部分が多いと思う。そういった意味で,漫画を通してビジュアル的に芥川作品を解説している本書は,芥川作品の解説書としても大変楽しめた。トロッコを押しながら,それに乗ることを楽しみおもったり,どこまで押すのか,この後帰れるのかと不安に思う少年の心情描写の表現は面白かったです。