泣き虫弱虫諸葛孔明1・2巻 感想

泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明 第壱部 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部 (文春文庫)

泣き虫弱虫諸葛孔明 第弐部 (文春文庫)

 後宮物語でデビューした酒見賢一氏の三国志物語。本人は,後宮小説ファンタジー小説として書いたつもりであるが,世間一般から中国歴史小説の専門家と勘違いされ,デビュー以降,中国小説の執筆依頼しかこないと嘆いているとか。

後宮小説 (新潮文庫)

後宮小説 (新潮文庫)

 全話,ギャグまみれで,面白いのですが,いかんせん長かった。文章で笑わせようとする小説は,短編が良いなとおもっているので,一冊500頁以上あって読むのに苦労しました。でも面白かったです。作者独自の歴史観ってものがあって面白かったです。

 三国志は戦前から中国古典で有名で,戦後,日本では吉川英治の大河小説として大ヒット。その後,三国志は,北方 謙三 ,宮城谷 昌光,陳 舜臣が小説化したり,横山光輝が漫画化したり,Koeiがゲーム化したりと多方面で商品化された人気コンテンツです。それぞれで三国志の解釈が色々異なるために,日本にはいろいろなストーリーの三国志がある。さらに,中国に目を向けると,陳寿が書いた三国志(歴史書)を底本としてさまざまな注釈書や小説がある。三国志って共通の名前を持つのに,中身の違う三国志が無数に存在する。

 作者は,小説の中で,量子力学論的中国歴史論を展開する。量子の状態は観測されたことによってその状態が固定さる。中国の歴史もまた,後世から観察されることで定まるなっていう。まさに,日中関係の中国は歴史認識の問題である。中国にとって,歴史は解釈し,認識するものだから,共通の事実なんてどうでもいいといいはる。そう,まさに中国の歴史には量子力学的並行宇宙の中にあって多数存在するのである。だから,三国志は色々な解釈があって面白い。

 本作では,劉備の解釈の仕方が面白い。その場で,大見得切るだけで何も考えていなくて,ひたすら周囲に不幸をまき散らし,中国の混乱の大型台風の目劉備玄徳。次回の活躍が気になります。早く文庫版で3巻が出て欲しいです。

三国志魂 上下巻感想

三国志魂 上

三国志魂 上

三国志魂 下

三国志魂 下

全体に三国志の内容を知っている人向けの本です。
 メインは,荒川弘 氏と杜康潤 氏との対談および荒川弘 氏の四コマ漫画です。四コマ漫画で描かれているネタは,粗筋を知っていれば面白いのですが,知らなければなんでそんなオチなのっておの多いと思います。
 一度,三国志を読んだことある人が,三国志演技のダイジェストを読みながら,対談をよんでアルアルって共感するのがこの本の読み方かなと感じました。
 
 三国志演技に関連する本を読んでいて思うのが,劉備は美化されすぎでなないかといつも思う。劉備は,苦しいときに助けてもらい兄弟分の仲になった呂布の処刑を曹操することを進言している。処刑される前の呂布に「大耳こそあやし(劉備は何を企んでいるかわからない,裏切り大好き野郎だ)」なんて言われる始末。
 劉備の略歴を記すと以下のような感じです。何回人を裏切ってるんだよと突っ込みたくなる。
 公孫サンについて袁紹と対立。
 その後,公孫サンところを飛び出して曹操と対立。
 呂布を手下にして袁術と対立。
 呂布の手下となって袁術曹操と対立。
 曹操の配下となって呂布と対立。
 曹操を暗殺しようとして出奔。
 袁紹の客分となって曹操と対立。
 袁紹が落ちぶれそうなので,そこを出奔。
 荊州牧の劉表の客分となる。荊州劉表死後,曹操に占領されるが,曹操赤壁の戦いで敗北して荊州から撤退。その後,劉表の子孫差し置いて荊州強奪。
 その後,益州劉璋から招かれたことを良いことに,軍隊を引き連れて益州強奪。
 
 とまあ,一行ごとに対立相手がかわる。その対立相手が直ぐ上の行では味方だったりする。無節操すぎる。その場しのぎのために,裏切り続けたんじゃないかと疑いたくなる。いったい劉備は何を考えて生きていたのかと思う。たぶん,何も考えず,将来のビジョンもなく適当にして,やばくなったら逃げるを繰り返していたんじゃないかと思う。それなのに,三国志演技では,何をやっても聖人君主扱い。まさに劉備マジックである。
 長坂坡(ちょうはんは)の戦いでは,劉備は妻子を棄てて諸葛亮らとともに数十騎で逃走したダメ野郎だ。しかし,三国志演技では,趙雲を窮地にするような息子はいらない(赤ちゃんなんで戦場で足手まといとなった)と,息子阿斗を殺そうとする(趙雲に止められて果たせない)部下思いの名君主となる。これが,三国志演技だと屈指の美談となってしまう。だが,事実だけみると,劉備は妻子を捨てて,息子を殺そうとしただけじゃないかと思う。すごく薄情な人にしか見えないのに,これば美談となる。まさに劉備マジックである。三国志演技では,劉備がすることが正義なのである。
 
 劉備孔明に対する遺言が「劉禅が補佐に足る者であったら,助けてやってほしい,もうそんな能力がいようなら,君(孔明)が国を奪いたまえ」である。
 これが,劉備の,為政者より人民を大切にする仁徳を表す言葉として有名なのだが,どうだろう,なんて家族愛が無く,国民に対しても無責任な言葉ではないだろうか?
 行動をからみて劉備は無責任で無節操で,特に信念もない人間であったと思う。しかし,なんの信念もないから,扱いやすい上司だってことで多くの家臣があつまったんじゃないかと思う。それが仁徳と勘違いされ,後世の人から聖人扱いされているだけなんじゃないかな。

軍靴のバルツァー3巻感想

軍靴のバルツァー 3 (BUNCH COMICS)

軍靴のバルツァー 3 (BUNCH COMICS)

 外交手段としての鉄道の軌道規格の輸出の話は面白かった。軍隊という直接的な影響力と引き換えに,鉄道規格といった目に見えにくい影響力を残す。第二次世界大戦前の中国東北地方での鉄道の軌道規格で日本とロシアが争ってたように,鉄道規格を他国に輸出し,その国に影響力を保持することは,現実の歴史でも多くあったことだよね。
 
 自分の係る分野の話になるが,日本の土木技術は世界一だといわれているものの,海外でのプラント等の受注は,日本よりも実は韓国の方が多いわけで,日本の土建業はあまり海外に進出していない。それは,日本が地震大国でさらに,地盤がとても弱い特殊な地域であるため,土木技術が独自の発展を遂げ,世界の標準規格とはことなる日本の規格を作ってしまっためである。規格の違いが日本の海外進出を遅らせている。日本の土木業界が田舎の中小企業が中心で,中小企業の経営者が地元の政治屋と結びついて公共事業で稼ぐことばかり考えて,海外展開を考えてないことも原因だろうけど。
 近年では,大手ゼネコンが海外進出に積極的であるが,海外と日本国内とでの仕事のやりかたが違うため苦戦しているようである。最近,大手住宅メーカーの社長さんが,発展著しいアジア市場にどうやって日本の土木技術の規格を輸出をするのかについての記事を雑誌に投稿していた。とりあえず,中国で市場を開拓することが,東南アジアへ進出する足掛かりになると書いてあった。その中で,日本独自に発展した調査方法,例えばサウンディング試験(土の中に突っ込んだドリルを回して,土の締り具合を調べる試験で,戸建住宅の基礎となる地盤の強さを調べる試験)を中国に輸出して,日本独自の土木試験の規格を輸出することが,その後の仕事のやり方の規格の輸出,ひいては日本の土木技術の輸出につながるって書いてあった。形のない規格といった概念的なものを輸出して,見えないところから他国の市場を侵食して,その後,物質的なもので市場を独占しようとする考えかたが凄い。
 軍靴のパルツァーでは,直接軍事力に見えにく鉄道規格の輸出により,国民感情を逆なでせずに徐々に属国化していくのは,架空軍事小説ではべたな話かもしれないけど,面白かった。
 現実の歴史で規格の話だと銃弾が面白いと思う。この辺りを突っ込んで描いてくれないかな?

軍靴のバルツァー2巻感想

軍靴のバルツァー 2 (BUNCH COMICS)

軍靴のバルツァー 2 (BUNCH COMICS)

 実際に19世紀を見てきたわけではなし,当時の歴史に詳しくないが,この物語は19世紀後半帝国主義のヨーロッパの雰囲気を良く表しているんじゃないかと思う。細かな軍事面の描写で,兵器・科学の進歩や産業の発達による近代国家成立の過程で,国民生活が大きく変化する中,既得権益をしがみつく大人と,新しい時代を作ろうとする若者の対立が見事に描かれている。
 軍内で近代化を促すバルツァーに憧れる,新技術を吸収しようとする学生達と,それを疎ましく思う上官・貴族達との対立し,産業の近代化で職を失う職工達が暴動を起こし若い学生が暴動の鎮圧に向かう。
 新世代と旧世代との対立はいつの時代もあることで,19世紀,日本だと明治時代の当時では,対立の仕方が暴力にたよっていて物騒だなと感じる。それにしてもこの漫画は,現代的な友愛を大事とする感覚ではなく,ナショナリズムを中心とした物語内独特の,この19世紀を舞台としている世界でなら十分常識的と思われる発言や行動する主人公には好感が持てる。
 人物の描き方はちょっとまだこなれていない所がある様に思いますが、歴史をよく勉強されているので、仮想戦記ものとしても物語としても無理なく理解できて楽しく読る。
 
 世代間対立で思う。近代国家で,世代間隔差の争いは,民主主義的に選挙によって決着がつけられる。一番重要なのは,科学や革新的な技術・新しい思想ではい。数なのである。「戦いは数だよ,兄貴」とはまさに名言である。今の日本では団塊世代が圧倒的に強く,彼らの有利な政策がとられがちだと思う。私の所属する氷河期世代は常に焼け跡世代・団塊世代に負けっぱなしで,年金や増税で割りを食うと思うと若干くやしく思う。
 漫画とは,書いている作者が問題意識を持っている限り,世代を映す鏡ともありえると思う。そういったことから,最近,既得権益者vs新世代の対立を描く漫画が多くなった気がする。ただ単にそういったものを面白く感じるようになって,そういったテーマの本や漫画を比較的多く読むようになっただけかもしれない。でも,この辺は,社会保障の拡充で得をする老人や団塊世代と,増税によって割りを食うゆとり世代といった,世間に対する不満を感じているせいかもしれない。
 この漫画の中で元気な学生たちが暴動を越した職工達を鎮圧するのを見て,元気あるものの力のあるものによって世代交代が行われない限り,社会は停滞すると思ってしまった。しかし,そういった問題解決法がいい事だとは思わないけど。

 http://d.hatena.ne.jp/tyokorata/20120702/1341314298 
 漫画は,作者の生きた時代を映すものだと思う。

 才能がない人間でも、努力と根性で報われるという物語は、孤児の矢吹ジョーやタイガーマスク伊達直人などの梶原漫画がその流れを作り出したけど、社会が固まってくると、血統や家柄や環境が重視されてくる。それは、強い主人公の理由付けが必要になるから。男塾の剣桃太郎はそれを逆手に取った

 
 明日のジョーやタイガーマスク等の無一文から頂上を目指す漫画は”焼け跡世代”や”団塊の世代”といった第二次世界大戦後のゼロから経済復興をになった世代を代表する作品だと思う。
 その次くらいに来る大きな世代は,”しらけ世代”および”バブル世代”は、経済が安定きに入った時代に産まれた2世代で,親からの資産を受け継ぐことが約束された前途洋々な世代だったと思う。この頃に活躍した漫画は血統主義的なものが多いようである。
 

 最近(ここ二十年)のジャンプ漫画は、スポーツものと恋愛ものを除くと、概ね血統主義が多い。孫悟空ですら、サイヤ人という血統主義に後半は犯された。つまり、下級戦士だった孫悟空ベジータを努力で乗り越えるはずが、サイヤ人に生まれなければ戦士に非ずとなったのは社会の構造変化として興味深い

氷河期世代(団塊ジュニア)やゆとり世代を表すのはなんだろうか?世代間隔差の是正じゃないだろうか?代表作的なのでワンピースを考えると,主人公のルフィーは血統主義だが,物語は,既得権益を牛耳る海軍とそれに抵抗する,新世代の海賊達の構図のように見える。
 巨人の進撃では,世界の重大な秘密を秘匿する教会や王族と,世界・巨人たちの秘密を解明しようとする若者で構成される調査団との対立が話の軸になりそうである。
 鋼の錬金術師で似たような構図を見ることができる。軍靴のバルツァーでも,旧世代と新世代の対立が話の軸となっているのは面白い。

軍靴のバルツァー 1巻感想

軍靴のバルツァー 1 (BUNCH COMICS)

軍靴のバルツァー 1 (BUNCH COMICS)

文句なしに面白い架空戦記ものです。皇国の守護者並みに面白かったです。


 舞台は、小銃がマスケットからライフル銃に更新され、電信と鉄道が前線と本国の距離を急速に縮め始めた時代のヨーロッパ風架空世界。時代的には第一次世界大戦前のプロイセンビスマルクが鉄拳をふるっていた時代を彷彿させる。
 軍事大国のエリート士官である主人公が、戦争と無縁の小王国に軍事顧問として派遣されるも、主人公と王国の人間では戦争に対する意識のギャップがの中で駆けずり回り,大国のエゴを通しつつ,小国のプライドを傷つけないように,軍拡を進めるすがたは,さしずめ,明治維新のお雇い外国人技師といった感じです。

 大砲発射の手順やライフル銃の優位だけでなく、軍装や世俗など細かい部分も真面目に描かれており、絵を見て兵器の形状を考えるだけでにやにやできる。1巻終盤の囚人を使った兵器実験での展開はよかったです。従来のぬるい漫画に慣れていた自分としては(絵柄がぬるいのにやることがエグイ),主人公が綺麗ごと並べて博愛を説くかと思いきや…。と十分ネタバレしてますが。ここまでで。

【花もて語れ】4巻感想

花もて語れ 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

花もて語れ 4 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)

 4巻では芥川龍之介の「トロッコ」を朗読します。
 心情の吐露,心の葛藤,不安の中で希望への渇望等が書かれてる後記芥川作品は,自分自身が感じている社会に対する不安等と重ね合わせ,作品に共感できるというてんで好きです。作品を読むにあたっては芥川自身の経歴や作品を書いていた時期,書いていた時代の世情等を調べておくと作品を十二分に楽しめます。特に芥川の自殺後に見つかったの作品「或阿呆の一生」の芥川自身の人生について書いた作品と言われ,人生の節目に感じたことを各章に書いているものの,その内容は抽象的・幻想的である。そこから,どのような思いでこの作品を芥川が書いていたのかを想像するのがとても楽しい。
 第七章の「画」では生前から名声を得るこのとのなかったゴッホ描き, 名声を得る為か,自分自身のために作品を書くのかの葛藤があったように思える。
 第九章の「死体」ではタブーを犯してでも新境地を切り開く意欲が書かれ,たとえ世間から批判されようとも自分自身の作風を作ろうとする決意が感じられる。第十章は夏目漱石と出会い心の平安を得た様子が十一章では,文壇に認められ日の事が書かれている。犬嫌いで有名な芥川が,「か細い黒犬が一匹,いきなり彼に吠えかかった。が,彼は驚かなかった。のみならずその犬さへ愛してゐた。」と書いている。文壇での批判も犬の遠吠えにすぎないとでも書きたかったのかととれる。第十二章軍港は潜水艦の中を舞台とし,外の様子を潜望鏡で覗いている場面を映画いている。

潜航艇の内部は薄暗かつた。彼は前後左右を蔽《おほ》つた機械の中に腰をかがめ、小さい目金《めがね》を覗《のぞ》いてゐた。その又目金に映つてゐるのは明るい軍港の風景だつた。「あすこに『金剛』も見えるでせう。」
 或海軍将校はかう彼に話しかけたりした。彼は四角いレンズの上に小さい軍艦を眺めながら、なぜかふと阿蘭陀芹《オランダぜり》を思ひ出した。一人前三十銭のビイフ・ステエクの上にもかすかに匂つてゐる阿蘭陀芹を。

このころになると文壇で認められ,前途洋々とお思われた芥川の人生も,世間からの期待とは裏腹に,自分の作風に迷いがあり,暗中模索でそれを探していたようにかんじる。
 作者の心情や世間に対する考えた方を読み取るのも小説の醍醐味であり,色々な解説書が出版させている芥川作品はとても楽しめる。また,文庫についている解説を読むだけでも楽しい。特に芥川作品では,作中の人物のからみた情景描写が,作者の心情描写と重なる部分が多いと思う。そういった意味で,漫画を通してビジュアル的に芥川作品を解説している本書は,芥川作品の解説書としても大変楽しめた。トロッコを押しながら,それに乗ることを楽しみおもったり,どこまで押すのか,この後帰れるのかと不安に思う少年の心情描写の表現は面白かったです。