軍靴のバルツァー2巻感想

軍靴のバルツァー 2 (BUNCH COMICS)

軍靴のバルツァー 2 (BUNCH COMICS)

 実際に19世紀を見てきたわけではなし,当時の歴史に詳しくないが,この物語は19世紀後半帝国主義のヨーロッパの雰囲気を良く表しているんじゃないかと思う。細かな軍事面の描写で,兵器・科学の進歩や産業の発達による近代国家成立の過程で,国民生活が大きく変化する中,既得権益をしがみつく大人と,新しい時代を作ろうとする若者の対立が見事に描かれている。
 軍内で近代化を促すバルツァーに憧れる,新技術を吸収しようとする学生達と,それを疎ましく思う上官・貴族達との対立し,産業の近代化で職を失う職工達が暴動を起こし若い学生が暴動の鎮圧に向かう。
 新世代と旧世代との対立はいつの時代もあることで,19世紀,日本だと明治時代の当時では,対立の仕方が暴力にたよっていて物騒だなと感じる。それにしてもこの漫画は,現代的な友愛を大事とする感覚ではなく,ナショナリズムを中心とした物語内独特の,この19世紀を舞台としている世界でなら十分常識的と思われる発言や行動する主人公には好感が持てる。
 人物の描き方はちょっとまだこなれていない所がある様に思いますが、歴史をよく勉強されているので、仮想戦記ものとしても物語としても無理なく理解できて楽しく読る。
 
 世代間対立で思う。近代国家で,世代間隔差の争いは,民主主義的に選挙によって決着がつけられる。一番重要なのは,科学や革新的な技術・新しい思想ではい。数なのである。「戦いは数だよ,兄貴」とはまさに名言である。今の日本では団塊世代が圧倒的に強く,彼らの有利な政策がとられがちだと思う。私の所属する氷河期世代は常に焼け跡世代・団塊世代に負けっぱなしで,年金や増税で割りを食うと思うと若干くやしく思う。
 漫画とは,書いている作者が問題意識を持っている限り,世代を映す鏡ともありえると思う。そういったことから,最近,既得権益者vs新世代の対立を描く漫画が多くなった気がする。ただ単にそういったものを面白く感じるようになって,そういったテーマの本や漫画を比較的多く読むようになっただけかもしれない。でも,この辺は,社会保障の拡充で得をする老人や団塊世代と,増税によって割りを食うゆとり世代といった,世間に対する不満を感じているせいかもしれない。
 この漫画の中で元気な学生たちが暴動を越した職工達を鎮圧するのを見て,元気あるものの力のあるものによって世代交代が行われない限り,社会は停滞すると思ってしまった。しかし,そういった問題解決法がいい事だとは思わないけど。

 http://d.hatena.ne.jp/tyokorata/20120702/1341314298 
 漫画は,作者の生きた時代を映すものだと思う。

 才能がない人間でも、努力と根性で報われるという物語は、孤児の矢吹ジョーやタイガーマスク伊達直人などの梶原漫画がその流れを作り出したけど、社会が固まってくると、血統や家柄や環境が重視されてくる。それは、強い主人公の理由付けが必要になるから。男塾の剣桃太郎はそれを逆手に取った

 
 明日のジョーやタイガーマスク等の無一文から頂上を目指す漫画は”焼け跡世代”や”団塊の世代”といった第二次世界大戦後のゼロから経済復興をになった世代を代表する作品だと思う。
 その次くらいに来る大きな世代は,”しらけ世代”および”バブル世代”は、経済が安定きに入った時代に産まれた2世代で,親からの資産を受け継ぐことが約束された前途洋々な世代だったと思う。この頃に活躍した漫画は血統主義的なものが多いようである。
 

 最近(ここ二十年)のジャンプ漫画は、スポーツものと恋愛ものを除くと、概ね血統主義が多い。孫悟空ですら、サイヤ人という血統主義に後半は犯された。つまり、下級戦士だった孫悟空ベジータを努力で乗り越えるはずが、サイヤ人に生まれなければ戦士に非ずとなったのは社会の構造変化として興味深い

氷河期世代(団塊ジュニア)やゆとり世代を表すのはなんだろうか?世代間隔差の是正じゃないだろうか?代表作的なのでワンピースを考えると,主人公のルフィーは血統主義だが,物語は,既得権益を牛耳る海軍とそれに抵抗する,新世代の海賊達の構図のように見える。
 巨人の進撃では,世界の重大な秘密を秘匿する教会や王族と,世界・巨人たちの秘密を解明しようとする若者で構成される調査団との対立が話の軸になりそうである。
 鋼の錬金術師で似たような構図を見ることができる。軍靴のバルツァーでも,旧世代と新世代の対立が話の軸となっているのは面白い。