3月のライオン 7巻の感想

チャプター
64.銀の羽
順慶は,才能の限界を感じ,棋界からの引退を考えるように鳴る。しかし,レース鳩で行方不明になったと思っていた最愛の鳩が,傷つきなら懸命に飛んで戻ってきた姿をみて,もう一度将棋に打ち込もうと決意する。

65.川景色
いじめにより修学旅行先で孤立したひなたは,京都に来ていた零に慰められ,立ち直る。

66.陽のあたる場所
日本将棋連盟会長に期待され,将科部の先生や仲間から新人王獲得を祝われ,零はこの幸せな日々を心に記憶しておこうと思う。

67.小さな世界
将科部の3年生が大学受験に備えるため退部することになる。零は,同世代の友達が離れていくことに不安を覚える。先輩達に代わって将科部に校長や教頭たちが入部することになり,零は戸惑う。

68.黒い霧
ひなたの主体が不明瞭ないじめ問題を苦にしたクラスの担任の先生が倒れ,学生主任の国分が担任の先生となる。

69.光
担任の国分が,いじめ問題のへ介入すると宣言し,ひなたに助けの手を差し伸べる。

70.小さな手のひら
クラスから暗黙のいじめのルールがなくなり,いじめは収束する。その後,手紙により、ちほが元気にやっていることを知り,ひなたの自分にやってきたことがなんとなく正しかったと思う。

71.日向
いじめをテーマにしたはなしのエピローグ。クラスメートと一緒に遊ぶようになり,ひなたは昔のあかる性格を取り戻す。零は,いじめにくじけなかったひなたを見て彼女に心を惹かれる。

72,流れていくもの
島田八段と柳原棋匠の対決は,柳原棋匠が勝ちを制した。
ベテラン同士の戦いは,棋界に何ら変化をも取らさなかった事が,次に予定されている新人記念対局による新人棋士達によって話が大きく進む事を予感させる。

73.白い嵐
新人記念対局の前夜。宗谷名人と零とがレセプションでインタビューを受けるが,宗谷名人の返答がまったく的外れで,もはや,人としての常軌を逸した(天然ボケ)行動をとる。零はそれを将棋に全てをもって行かれた魔物と感じる。

感想


3月のライオンは,将棋を題材にしているだけあって,物語のテーマは孤独な戦いにあると感じている。 8巻では,ひなたがいじめに対して,自分の正義を貫き通し,クラスで孤立したが,周りの手助けによって立ち直った。いじめは,担当教師の国分が強制的に介入し収束させた。これは,満身創痍で戻ってきたレース鳩が,順慶によって手厚く治療され,周囲(順慶)によって助けられ、再びレースに挑戦しようとしているのと同じ構図である。
 8巻は、人が、自分一人で社会の中で戦っていても、気づかない内に、その人を気遣う人から周囲の友人等から助けの手が差し伸べられ、人は一人生きているのではないという話で纏まっている。
 冒頭では、順慶はレースで、鳩を助けることで、自分の居場所を見つけ、自分の戦いを続けようと決意する。ここには、順慶が他者に自分の拠り所をみつけ、鳩に依存している様子が見られる。これは、零がひなたに対して抱いた感情と似ているが、ひなたのいじめを解決してやることができず、自分が無力であると感じたことが、将棋で強くなろうと思う原動力になっている。これ以外にも、会長等からの期待に応えようとし、零の将棋を強くなろうとする気持は、他人のためにある。一方で、これと対照的なのに、他者との関わりあいを全く気に留めていない宗谷名人である。次巻以降は、誰かのために強くなろうと願う者と、ただ、周囲の者の事を全く気に留めず将棋だけに打ち込んできた者の、正反対な両者の戦いをどう描くのか楽しみです。

細々と面白かったところ
孤独な作業を強いられる漫画家という職業もまた自分との戦いだと思う。冒頭部のプロ棋士順慶の”水底に潜って答えを探すことが,いつしか恐怖との戦いにかわった”という独白は,作者である羽海野チカ先生の漫画家としての告白に近いものがあると感じた。8巻のテーマが“一人で困っていても、周りに優しい人がいて、きっと助けてくるよ”って感じだったのに対して、あとがきが、作者と担当者のはなしで、作者が担当者を信頼しているような感じがして良いなと思った。


実際に使うと笑われそうだけど、作中での好きなフレーズ

野口「心配しすぎです『得たり』『失ったり』は全ての人間の避けようもなく訪れるもの…

喜んだりがっかりしたりをくりかえし

人間は自分の心の取り扱い方を学んでゆくのです…

失望も寂しさも人間には必要な感情です。

勇気を出して新しい世界に手を伸ばすのは

『淋しさ』ゆえのこと…

そうやって人は…自分の小さな世界を

赤子のように手を伸ばして広げてゆくのではないでしょうか…